銀河英雄伝説SS「増やす人、捨てる人」(双璧)

※ようするに増やす人と捨てる人の話。






 会ったのはたまたまだった。
仕事でもプライベートでも一緒にいる事は多いが、こんな風に外で偶然出会うのは珍しい、とロイエンタールは思う。
 向こうもそう思ったのだろう、顔を見合わせた瞬間、ひどく驚いた顔をしていた。
ただその一拍後に放たれた彼の言葉は、ロイエンタールにとって、とても不思議な響きを帯びて聞こえてきたのだ。

――猫がいたんだ。目の色が左右違っていて、つい目をやっていたら卿に会った。

ミッターマイヤーはそう言って、何故かひどく嬉しそうに笑っていた。

つまり俺と同じような目の猫と出会って、すぐに俺と会ったから、その偶然を面白がっていると言う事か、とロイエンタールは解釈したが、どうにもそれだけとは思えない。

 親友は奇妙なことに、浮かれているようだ。
二人で歩き出してから、ロイエンタールがミッターマイヤーを観察して導き出した結論がこれだった。
同時に彼の腕の中には、それほど大きくはない紙袋が抱えられているのに気がついた。

 原因はこれかと、見当をつけたところで、前を向いていたはずのミッターマイヤーと目が合う。
その顔はさながら美味しいおやつを分け合いたい、と思い立った無邪気な子供の顔をしていた。
この場合、自分が美味しいからと言って、他人にも美味しいおやつであるとは限らないとはまったく思いも寄らないのだろう。

「結婚記念日に、いいものを見つけたんだ」
「ほう」

 感嘆して見せたが、気持ちはまったく籠ってはいなかった。

「毎年、エヴァへのプレゼントに、つがいの小さなアンティークを買っているんだが、今年はこれを贈ろうと思っている」

 ロイエンタールから見れば、一生分の笑顔を振りまいているのではないかと疑いたくなるような笑顔を注いで紙袋から取り出したのは、宣言通り、つがいになっている小鳥の置物だった。
掌に乗せられるような小さなサイズだったが、寄り添う小鳥の広げた羽の細やかな模様や、凝らしたデザインと彩色の鮮やかさは、確かに良いものを見つけたものだ、と貴族育ちのロイエンタールにも思わせる作品である。

「だが、卿の結婚記念日は、もう少し先ではなかったか?」
「あぁ。でもいざその時になって売られてしまうより、先に買っておいたほうがいいだろう」

 なるほど。ようやくロイエンタールは、親友の常とは違う様子を理解した。
次はたしか結婚8年目になると言うのに、いつまでも新婚気分なままの男だな。
 絶望的なまでに女を信じていないロイエンタールにとって、こんな時は気持ちいい男であるはずの親友が異様な生き物にしか見えない。

「ついでにエヴァへの誕生日プレゼントも買ったんだ」
「は……?」

「うさぎのアンティークドールだ」と、うきうきした顔で付け足されてしまった。
別に種類を聞きたかったわけではなかったのだが。

 先の物より更に小さいうさぎの形をした置物が、いつの間にか紙袋から取り出されて、ロイエンタールの顔の前に差し出されていた。
独特の目を引く色彩に真新しい既知感があるので、おそらく小鳥の置物と制作者が同じなのだろう。

 ロイエンタールがミッターマイヤー夫人の誕生日を覚えている訳がないので知らないが、それにしても「ついで」と言ったからにはこれを目的に買い物に行くほど期日が迫っている訳ではないと推測できる。

 つまり――

「おい、気が早い買い物が多すぎるんじゃないか」
「そんなことはない」
「だいたい小さいとはいえ、こんな置物を毎年増やしていたら、置き場所がなくなるだろう」
「置き場所ならいくらでもあるさ」
「あっても邪魔になるだろう」
「邪魔だったらおれは買わん」

 きっぱりと言われてしまった。
酔ってもいないのにこんな話題で往来の中、喧嘩するのも馬鹿らしいから、ロイエンタールは言葉の刃を引っ込めようとした。
 が、嫌なことを思いついてしまい、止せばいいものを、ついついそれを聞いてしまったのだ。

「まさか、卿の奥方への誕生日プレゼントは、毎年このような置物なのか?」
「そうだ」

 嫌な予測は的中してしまったようだ。

「おれがエヴァに贈るのは、うさぎの人形で、エヴァはおれにオオカミの人形をくれる。物はどんなものでもいいことにして、サイズだけはなるべく小さい物にすれば、何十年後になって増えてきても邪魔にならずに飾って置けるだろう」

 卿は何十年経っても結婚と誕生日の祝いの品を手間ひまかけて贈り続けるつもりなのか……。

 そう聞くのはもはや愚問だろう。
この男ならやる。病院で死ぬ間際の床に就いていようが、奥方が自分より先に亡くなろうが、贈り続ける。
 ロイエンタールは女を信じてはいなかったが、ミッターマイヤーの奥方への愚直な想いは、信じるも何も一緒にいれば嫌でも信じ込まされざる得ないのだ。

 それにしても、なぜ邪魔にしかならないこんな置物なんかを楽しそうに年々と増やすのだ。
食い物や花ならまだ理解できるが、置物はそこに在るだけで、何の役にもたたんのだぞ。

 ロイエンタールは、まだ未練たらしく口の中で文句を言い続けていた。

「確かにこの二つは気が早かったかもしれんが、最後の一つはそうでもない」
「何だ? まだ何か買っていたのか」

 今度は奥方と初めて手を繋いだ記念日か? ――そう皮肉って続ける前に、

「どうだ。いいものだろう」

 ミッターマイヤーの意味ありげで楽しげな含み笑いは、ここにいない人物に向けたものではなかった。
ロイエンタールを伺うかのように下から見つめている彼の手では、ガラスで出来た漆黒の猫の置物が、持ち主と同じような真ん丸い目で金銀妖瞳を見つめていた。

 意図せず猫と睨み合う。その猫は金と緑の瞳をしていた。
同時に、最初にかけられた彼の不思議な響きを帯びた台詞を思い出す。

――猫がいたんだ。目の色が左右違っていて、つい目をやっていたら卿に会った。

「出会った猫とはこれの事か?」

 答えはもちろん、肯定で返された。

それからは、何が面白いのかミッターマイヤーは、その猫を手の中で弄んでは日に翳したりなんぞをしていた。

 黒いのだからビードロや透明なガラスのように、綺麗に光を通すわけでもあるまいに。

やはり今日の親友は、ロインエンタール知らない生物らしい。
 そんな不審な様子に気付いたのか、蜂蜜色の髪が太陽に照らされて眩しい彼は、くすりと笑った。

「太陽に翳すと、黒猫の縁(ふち)が輝いて見えて、まるで魂が燃えているように見えるんだよ」

 言ってまた、その黒を太陽に当てて燃やしてみせた。

 ロイエンタールには、やはりよく分からなかった。
ただ、なるほど。そんな見解もあるのかと、少ぅしだけ感心したような気もする。


――黒いだけに見えても、あれは自分の身を燃やして輝いているのか。


「これは卿に贈ろう」
「何?」

 いつの間にか、手のひらにその小さな黒は落とされていた。

「その為に買ったんだ。捨てるなよ」

 ニヤリと、今までとは種類の違う悪童のような笑みを浮かべたのは、ロイエンタールがこの猫を捨てないとは、とうてい思ってないことを表明しているからだろう。
正直いらないものだったが、ロイエンタールは憮然とした。

「一つぐらいなら、いくら邪魔でも捨てたりせぬよ」

 そう言いつつもミッターマイヤーの顔が、一人の女も捨てずにおいた者はいないくせに、とその狭量さを揶揄しているように見えたのは卑屈に見すぎだろうか。

「そうか? 置いてても、うっかりなくしたり、壊したりしそうだ」
「それは言い過ぎだ。卿にそこまで言われては、俺も大事に保管するしかないな」
「ははっ、金庫にでも入れるのか。でもそれじゃあそいつは、何の為に生まれてきたのか分からないじゃあないか」

 妙な物言いをする。しかし、

「そうだった。置物は、飾られるためにあるんだったな」

 ロイエンタールは呟いた。
 そして気紛れに、黒を太陽に翳して見ようとした。
 しかしどうしてだか横からミッターマイヤーに奪われてしまい、その燃えて輝く様を見る事は叶わなかった。

 ロイエンタールが見えたのは、またもや太陽に黒を翳して覗き込む親友と、キラキラ光って太陽のように見える彼の蜂蜜色の髪だけだった。


-完-


 抽象的なお話。二重構造と対比。増やすミッタと捨てるロイ。黒猫(黒く見えるが燃えて輝いている)と太陽(見るからに光り輝いている)
気付いたらいれこ形式で書いてましたが、あんまり上手く消化出来てないなぁ(私が)
 元々、黒が太陽に当てられると魂が燃えて見える、は宮沢賢治の「おきなぐさ」からとったネタ。
新鮮な考えで驚いたのと、授業でこの描写についての考察を言って「教えなかったところ」と先生に褒められて満足だったから。
 でもなんかロイエンタールのイメージに合いそうな気がして使ってみました。それにしてもこのミッタは妖精のようにつかみ所がない。人間じゃないのかもね(え?
スポンサーサイト

theme : 二次創作
genre : 小説・文学

Secret

プロフィール

hawa

Author:hawa
二次元小説は男女(女男)CPかnotCPの健全ものです。
無断転載禁止。版権元、原作者とは一切関係がありません。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

QRコード

QRコード

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

RSSフィード

ブログ内検索