蒼穹のファフナーSS「温かいね。」(操+一騎)

※時系列的には映画の劇中。途中からあんまり難しく考えないようにして書いた操と一騎がたぶん仲が良い(え?)だけの話。
資料とかまったく持っていないのでアルヴィスの中の描写は適当です。






 ふらふらと出歩くことは禁止されていた。禁止というよりは、監視だ。
俺の一挙手一投足に人間たちはピリピリと警戒しては恐怖している。
この島の人たちは、俺がいつ同化や攻撃を仕掛けてくるか脅えているらしい。
そんなことなんてするつもりなんてないのに。

 でも今現在は当初の厳重な迎撃態勢よりは、ずっと緩和している。
理由は俺が本当に何もする気がないせいもあるだろうし、それに俺の傍には大体いつも一騎がいるからだろう。
何か怪しいことしたら、すぐに報告されて攻撃されちゃう。それはもしかしたら一騎自身の手によってかもしれなかった。

 でもって俺がどうしてこんな夜にふらふらとアルヴィス内をうろうろしているかと言うと、それもやっぱり一騎のせいである。
なんでか非常事態でもないのにこんな時間にアルヴィスへとやって来た一騎のお迎えに行く途中なのだ。

 普通なら俺を軽々しく1人で外出させないはずだけど、なんでかあっさり許可されてしまった。
でも俺に用があるとは限らないよね。その証拠に、俺が今住んでいる部屋にやって来るそぶりはない。
一騎と話しをするのは嫌いじゃないけど、怒られるのは嫌だからちょっと怖いな。

 それにしても、一騎はやたらと怒っていながら、俺と話すのを止めるそぶりはまったくないのは何故なのだろうか。
俺と話すの嫌じゃないのかな。怒るということはそういう意味ではないの?

 そんなことをぼんやり考えながら、開いている部屋をひょこひょこ覗きながら廊下を進んだ。
どこにいるのだろう。
ようやく一騎を見つけたのは、ある休憩室でだった。

 一騎は椅子に座って、テーブルにべったりと身体を預けていた。あれ? と思って近づいてみる。
上から見下ろすと、一騎は寝ているようだった。

 どうしよう、と困って視線を泳がせる。
そうしたら、テーブルに投げ出されていた、一騎の左手の指が目に入った。
薄っすらと指先に斜めに刻まれた傷口が、昼間のある光景を想起させる。

 何かで引っかけて怪我したんだっけ。
一騎は血が滲んだ自分の指を見て「どこでやったんだ?」と呟いていた。

 だから俺はオロオロと「痛いよね。痛いよね。血が出てるっ」とか言ったら、何故かムッとした顔をされた。

「別にお前は痛くないだろう」

 その後、やたら複雑そうな顔をして俺を見ていた。良く分からない。

 現実に戻ってきて、その傷跡を凝視した。
血はもう出ていない。実際に大した傷じゃないのは分かっているけど、痛いのは嫌い。
一騎は「お前は痛くない」とか言ったけど、俺は誰かが痛い思いをしているのを見ると、自分も痛いような気がしてくる。だからやっぱり痛いのは嫌い。

 無意識に傷に触れようと手を伸ばして、そして俺は怖いことに気付いた。
 
 痛いのが嫌で生まれることを拒否した新しいミール。
痛いのが嫌だけどこうして身体を持って生きている俺の存在。

 そうだよ。身体がなければ、傷なんてつかないじゃないか。
“無い”方が痛くないんだ。
ミールは別に間違ってなんかいないのだ。間違ってないのに、俺はそれは嫌だ。痛いのも嫌だ。
だから俺はどれも選べない。

 何でだろう。俺っておかしいのかな。今さらこんなこと気付くなんて。
ねぇミール、君に聞いてみたい。俺の存在は矛盾しているの? いけないことなの?
俺はただ、ミールの言うとおりにして、綺麗な蒼空をそう思ってくれるみんなと一緒に見上げたいだけなのに。

 考えたら他人に触ることが怖いことに思えてきた。
見るのも、話すのも、触るのも、何もかも新鮮で眩しくて楽しいことだと思っていたのに。

 鋭利な刃物を触ったら傷が出来る。触ることは傷つけることと同じだった。
しかも今のこの人間の体は、ひどく脆い。

 伸ばしかけた手が触れる前に止まる。
震える右手をゆっくりと引き戻そうとして――手首をつかまれた。

「うわっ!」

 慌てて振りほどこうとしたが、がっしりとした手指に掴まれて離れない。

「冷たい」

 起き抜けのはず人間から、明瞭な声がした。
心底驚いた。今も心臓がばくばくしている。眠りから覚めた一騎に、引き戻そうとした俺の手を掴まれたのだ。

「び、びっくりした。起きたんだ」
「何でそんなに驚くんだよ」

 寝起きが悪いのかな。いや、一騎は俺と話していると大抵機嫌が悪くなっていくんだけど。

「俺はお前たちと違って同化は出来ないぞ」

 そんなことを言われてしまった。
心のどこかがギクリとした。今一番言われたくないことを言われた気がする。

「俺だって同化なんてしないよ。そんなの嫌だもん」
「知っている」

 そう言い残して、一騎は部屋の外へとふらりと出て行ってしまった。
何、それ。一騎は俺の何を知っているわけ。
ぐちゃぐちゃととした気持ちが湧いてくる。何故かムッとした。
この気持ちは、誰かが抱いていたものと非常に良く似ていたような気がしたが、今この時の俺にはそれに気付くだけの理解は存在しなかった。

 折角探しに来たのに、どっか行っちゃうしさ。
見捨てられた気分だった。でも、そう思ってしまうのも変テコなことだった。

 もういいや。一騎なんてどうでもいいから戻ろう。
自然と俯いていた顔をあげようとして、影が落ちた。

「夏だからって、夜は寒いんだから薄着したまま出歩くもんじゃないぞ」

 その言葉と共に、おでこに熱い何かがぶつかってきた。

「うわちゃっ! 今度は何ぃ~!?」

 勢い良く振り仰ぐと、一騎の目と会った。
出て行った時と同様に、風のように唐突に舞い戻っていたらしい。

「もう、一騎はさっきから何がしたいの?」

 非難交じりの言葉にも耳を貸さずに、直前まで俺のおでこにあったらしい物が、一騎の手によって俺の手の中に落とされていた。

「これ……」

 手の中にすっぽりと収まったのは、温かな白いマグカップだった。
覗き込む。カップの中には、なみなみと注がれた白色のミルクが揺れていた。

 ゆらゆらと水面に映っている歪んだ自分の顔を「変な顔だ」とか思いながら、驚いて聞いた。

「くれるの?」
「じゃなきゃ渡さない」

 そういえば、一騎は俺の手首掴んで「冷たい」とか言ってたっけ。
俺が冷たかったから、これを用意してくれたのかなぁ。

 改めてこの温もりを両手でしっかりと握りしめて、ほっと一息つく。温かい。
口をつけると、甘くて優しい味がした。
普通のミルクとはどこか違うような気がして、ちらっと一騎に目をやる。

「はちみつ、入っている」

 と説明してくれた。だからこんなに甘いらしい。
俺は再びマグカップに口をつけて、自分の心境の変化も良く分からないまま、思わず零れるように笑顔になってしまった。

「温かいね」
「そうか」
 
 冷え切った心も体も、飲むたびに温まっていった。心がじんっとする。
頭がほわほわしてきた。そのほわほわがこんなことを思っている。
“冷た”かったから、“温かい”のが嬉しいと思うんだ。
それを受けて、うわ言めいた呪文を唱えた。

「“冷たい”は、“温かい”の為にあるのかなぁ」
「さぁ」

 じゃあ“痛み”はなんの為に存在するんだろう。
むくむくと甦る好奇心。自分はまだ、大丈夫。怖くない。そんな気がした。
 
 一騎は変わらず、俺の前に立って何を考えているのか、じっとこちらを見ていた。
だから俺はかじかんだ手をほかほかと温めてくれたマグカップから離して、思い切って一騎の左手をそーっと握ってみた。

「温かい」

 触ろうとして触れなかった手は、さっきまで俺と同じマグカップを持っていたおかげか、とても温かかった。
一瞬驚いたようにびくりとされたが、振りほどかれはしなかった。ただ遅れて一言。

「……そうだな」

 そっけなく言われた言葉も、どうしてか貰ったマグカップと同じように温かいような気がして、俺は今も笑っている。


―完―

 総士が操を理解してあげたから、今度は操が人間を理解しなくちゃいけない。
だからテーマ上、操が一騎を理解するまで、一騎は「空が綺麗」って言ってあげられないんだよな。これは一騎のせいじゃなくてシナリオのせいなんだよね(とフォロー)そう考えると劇中の二人は最後の最後にならないと理解しあえないから、あんまり仲よくしちゃいけないとか思うけど、二次創作だからいいよね。
二人の劇中の距離がどのくらいかとか考えると頭痛くなるので、難しく考えるのを止めて、仲よく(本当に仲良いのか?)させてあげました。
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