図書室のネヴァジスタSS「誰彼」(津久居兄弟)

※時系列がよく分かりませんが、幽霊島とコンビSSの間っぽい。でもそうするといるはずないんですよね(矛盾発生)まぁ、何も考えずにフィーリングで書いたらこうなった系の賢太郎+清史郎。ちょっとギスギスしていたり清ちゃんがヤンデレってたりしてるのが好きなので、内容は、たぶんギスギスほのぼのしているんじゃないかなー。






 目が覚めると誰かがいた気がした。 そいつはベッドの縁に手を突いて、こちらをのぞき込んでいた。

そんな昨晩の記憶が頭によぎった俺は、今日泊まろうと家に来た春人にそのことを呟いてみた。
とたんに青い顔して「ごめん。俺急用を思い出しちゃった。帰らないと」と夜も滲む間もなく早々に出て行ってしまった。
俺はたいして気にもとめず、春人のことも存在したかもしれない誰かのことも忘れて酒を飲み、ベッドに潜った。

 そしてまた、誰かはベッドにやってきた。
誰かの何かは、するすると俺の頬をなで、うでをなぞり、血管の浮き出たところを何か興味深い生き物を扱うかのように何度も押しつぶしていた――気がする。

 夢現だった俺が短い悲鳴をあげたのは、その血管めがけて思いっきり爪を引かれたからだ。

 寝起きの混乱状態に陥った俺は、誰かを見つけることはできなかったが、手首に残った爪の痕が、確実に誰かがいたことの証明をしていた。俺は自分の手首に走っている赤い線を眺めながら、まるでリストカットの痕のようだと思った。

 次の日は、戸締まりを確認し、風呂の中や押し入れや天井裏を調べて、とたんに俺はいろんなものがどうでもよくなった。

 いつも通りにベッドに入る。赤い線は、できた時からそのまま放置していた。

 その日、誰かはベッドに乗り上げて俺に馬乗りになったまま、夜が明けそうになるまでいた気がする。
重いと俺は抗議した気もするが、寝てしまってよく覚えていない。目が覚めると赤い線は二本に増えていた。

 次の日は、ばったり槙原に会ってしまい、いつも鈍感の癖に手首の傷に気づかれてぎょっとされた。
なぜか槙原は、キレながら訳の分からない説教や悪態をついたあげくに「分かった?相談ぐらい僕でものってあげるから!」と言い捨てて急いだ様子で別れた。
最後まで理解できなかったが、とりあえず槙原に相談するよりも犬かなんかに相談する方が大概の悩みは解決が早いだろうと思った。

 家に帰ってしばらくすると、電話がかかってきた。
煉慈からだった。珍しい。

 出てみると、息を飲んだ相手が乾いた喉から一生懸命言葉を吐き出していた。
長時間かけて聞いた内容をまとめると、明日休みだろう。幽霊棟にこないか。いや、来てくれ。というか、絶対こい!
という端的な文章で言い表せるものだった。どうして煉慈は手負いの猛獣に話かけるかのように緊張して話すのだろうか。

 更に、他の子供達とも電話を代わり、今日ははやく寝ろだとか、仕事がつらいなら辞めれば良いとか、生ぬるい祝辞を貰った。

 槙原が今日のことを勘違いして子供達に伝えたのだろうと察しはついたが、かといって今の状況をなんといって説明すればいいのか分からなかったから、適当に彼らに合わせて相槌を打っていた。
結果、俺は明日幽霊棟に行くことになったらしい。

 今夜もベッドに異常はない。
異常なのは部屋にぽっかり溜まった暗闇だった。


 誰かの首を絞める夢を見た。
この指先が振るえる喉を潰して、誰かの言葉を奪っていた。
誰かはぽろぽろと涙を流して苦しんでいた。そのはずだ。いっそ気持ちが良さそうだったなんてあってたまるものか。

 目が覚めると首を絞められていた。今度は絞められるほうか、と悪態つきたくてもできなかった。俺の言葉はその指先に奪われていた。
夢ではなく現実の出来事だった。

 酸欠でろくに働かない頭で、首を絞めることにはどういう意図があるのか考えた。

 この手で奪いたいのは、言葉か。吐息か。命か。

――死んでいく顔が見たいのだろうか。
――殺している自分を見て欲しいのだろうか。

 晃弘に聞いてみれば良かった。あいつはかつてやたら俺の首を絞めていたものだ。

 そのようなことを考えていると、急に締め付けが緩んだ。息を吐いたし同じように吸ってもいた。
そうして誰かは指先を喉仏にもっていき、浮き出た血管で遊んでいたのと同じぐらい無遠慮に押しつぶした。

 ピンポイントの苦痛は、首を絞められた時を上回った。

 俺は生理的に発生した涙をにじませながら、やっぱり気持ちがいいなんて嘘だと再確認した。
俺は殺されるのだろうか。音も立たずに、暗闇の中、誰かも分からない人間に。

 遠ざかる意識とは裏腹に、湧き出たのは激しい怒りだった。
どうして俺が顔も見えない人間に殺されなければいけないんだ!

 首を絞めている誰かがどんな顔をして、どんな思いでいるのか分からないのだ。分からないならそいつは俺にとって見知らぬ通り魔と一緒だった。
そして俺は通り魔野郎なんかに自分の命を差し出してやる義理なんか毛頭持ち合わせていないのだ。

 俺は怒りに身を任せて、誰かの腕を掴んだ。

 それまで殆ど抵抗してなかったから、奴は驚いて首の拘束を緩めた。
あとは簡単だった。 なぜなら俺が許せなかったのはたった一つだったからだ。

 俺はこの暗闇に同化して、声一つ漏らさない『誰か』が分からないことが許せなかったのだ。

 誰かの腕を引いて布団に引きずり込む。やはり声は出さない。動揺が伝わる。少しずつ、誰かではなくなる。
目を閉じて誰かを更に引き寄せた。懐かしい匂いがした。もう相手は誰かではなかった。
俺は安心して眠りについた。


――翌朝。

「おい、なんでここにいんだ」

 俺は掛け布団をめくって、ひょっこり現れた弟に、寝起きの機嫌良く問いかけた。

「ふがー。兄ちゃん冷蔵庫は食べられないって。まな板ならいけるかもー」

 だが弟は夢の世界の住人だった。
頬を軽くたたいて「おい。起きろ清史郎」と耳元で怒鳴ると手を噛まれた。本気で食われそうな噛まれ方にぞっとした俺は、遠慮なく鼻と口をふさいで起こすことにした。春人以外の人類ならこれで起きるはずだ。

「んんんぶはぁ! えっなに? ハンバーグは? カレーライスは?」

「俺の手しかないぞ」

「兄ちゃんの手食えねーよ!」

 ぶーぶー文句をたれて、口元から垂れていた涎を拭っていた。良く見ると俺の服にも涎がべったりついていた。この野郎っ。

「で、どうして勝手にベッドの中に潜り込んでいるんだ」

「俺のせいじゃないって。兄ちゃんが引きずり込んだんじゃん」

 と言われてもそんな記憶はさっぱりなかった。思い出すことと言えば、首を絞められる夢を見たような、首を絞める夢を見たような、そんな曖昧で現実感のない空想事だけだった。
つまりそれは夢であって現実ではない。

「俺は知らん。そして不法侵入はするな。アポをとれ」

「兄ちゃんひでー!」

まだ喚く弟を背に洗面台に向かう。まだ頭がはっきりしない。昨夜は酒も飲んでいないのに、脳みそがクラクラ酔っているように感じられた。

「今日、あいつらに会いに行くんだが」

「あいつら? 瞠たちのこと?」

「あぁ。お前も行くか」

「行く!」

 弟は見知ったガキそのものの無邪気さで屈託なく笑顔を振りまいていた。
支度を終えて、玄関をくぐりながら、朝飯をどうするか言葉を交わしていると、ふとそれが目に留まった。

「手首どうした?」

「んー」

 清史郎の手首には絆創膏が貼ってあった。
とたんに黙り込んで自分の腕を見つめる弟は、まるで見知らぬ誰かのように見えた。

「遊んでた。引っ掻いて血でちった」

「そうか」

「兄ちゃんも絆創膏いる?」

 差し出された言葉も顔も、今度はしっかりと本人のものだった。
俺が注目回避の為に赤い線の上に絆創膏を貼るのを、清史郎は熱心に見つめていた。

 マンションから外に出た。
太陽は溶けるように眩しい。落ちた影は地面にだけたまっている。
光は止むことのないかのように、俺たちの体中に降り注いでいた。

 楽しげに駆ける弟の背中を見ながら、俺は清史郎と同じ場所に出来た手首の傷をなぞり、こう思った。
二人で負った傷ならば、あいつらの誤解も解けるのではないかと。

―FIN―

清史郎が賢太郎に抱きついて寝てたって描写が入れたかったのに入んなかった……。
スポンサーサイト

theme : 二次創作:小説
genre : 小説・文学

Secret

プロフィール

hawa

Author:hawa
二次元小説は男女(女男)CPかnotCPの健全ものです。
無断転載禁止。版権元、原作者とは一切関係がありません。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

FC2カウンター

QRコード

QRコード

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

RSSフィード

ブログ内検索