図書室のネヴァジスタSS「ちり紙一つと等価価値」(瞠視点ALL)

※ALLキャラの瞠愛され話。福引で二等賞当てた瞠が困った事態に陥りました。




 カラン~カラン~!

「おめでとうございます! 二等賞です!」

 ごま塩頭のジャンバー姿の男性が、ベルを鳴らしてにこやかに今の状況を伝えてきた。
俺の目の前には白い小さな玉がぽつんと転がっている。
特賞は金、一等は銀、そして二等は白だと天井にかかげられた大きな看板が、図表入りで説明してくれていた。なんて分かりやすいんだ。

 というか、どうして二等が白なんだよ。金銀から見た目のランク落ちすぎだろう。赤なんてティッシュ引換券のくせに、相方はそんなに偉いのか。
な~んて、現実逃避に没頭している間に、俺の手にはティッシュとはとても等価とは言えない景品が握られていた。

 手の中をみる。間違いなく、俺が手にしたことのない黄金のチケット(※黄金は比喩表現で実際は水色である)だった。
俺は興奮に突き動かされ、友人に喜びのメールをし、ダッシュで帰宅をした。

 このときの俺は、まさか幽霊棟であんな大騒ぎが勃発しているとは思いも寄らなかったんだ。


「なんだと!誰が毎日食事つくってると思っているんだ」

「関係ないよ。煉慈が好きで作っているんだもの」

「はぁ? じゃあお前に飯を作りたくなくなったから、今日からなしで良いな? 今後は俺の好きな奴にしか作らないからな!」

「いいよ。煉慈なんか嫌い」

「二人とも待ってよ。そんな喧嘩しなくても良いじゃない。本人が来れば分かることでしょう?」

「はっ、お前自分が選ばれるつもりだからそんなことを言ってるんだろう。なんたって、久保谷がメールしたのはお前だけだもんな。本当は内緒で行く気だったんだろう」

「違うってば。内緒にする気なら茅に言ったりしないって。絶対ついてきたがるじゃない」

ねぇ、とハルたんが同意を求めると茅さんは頷き、こうのたまった。

「久保谷はきっと僕を選ぶよ」

「……」

「……」

 ハルたんとレンレンは無言で目線を交わした。

「お前根拠はあるのか?」
 
 訝しげにレンレンが茅さんに問うと、

「だって久保谷と出かけるのは楽しいよ」

「だめだ。こいつ根拠ゼロで言ってやがる」

 処置なしの呈でレンレンが後ろを向いた隙に、さっちゃんは隣に座っている茅さんにちょんちょんとちょっかいをかけていた。

「晃弘、僕に譲ってよ」

「嫌だよ」

「分かった。じゃあ賢太郎に晃弘は瞠がいればいいみたいだから連絡来ても電話は取らないように言うから。先生には罰ゲームに負けたから一週間話しちゃだめって言う」

「和泉はどうしてそんな意地悪言うんだい?」

 茅さんが悲壮感溢れた顔で聞くと、さっちゃんはミステリアスに笑った。

「ふふふ君が好きだからだよ」 

 うわぁ、こういうところマジ嫌い。するとすかさず保護者が助けに来てくれたようだ。

「和泉、意地悪言わないであげてよ。茅が信じちゃうでしょう」

「まったくだ。まぁあいつが茅を選ぶとは思えないから、そんな交渉は無意味だぜ。こういう時は普段世話になっている奴を誘うもんだ」

 というかさーレンレン……。

「瞠でしょう世話している方は」

 ハルたんも……。いや、みんなもいい加減にさー。

「だから久保谷を待てば分かるだろうが!」

「それ最初に言ったの俺って分かってる!?」

 にらみ合う2人。
だーかーらーさー。俺もうとっくの昔に幽霊棟にご帰宅しているんだけど!
みんなが喧嘩してるから入りにくくて盗み聞き状態なんだけど!

 茅さんとさっちゃんは俺に背中向けてるから仕方ないかもしれないけど、横顔向けて突っ立ってる二人は気づこうよ。
諦めて、俺から声をかけようとした。丁度その時、お互いしか見ていなかったはずのレンレンとハルたんの目が不意にがっちりと俺を捉えた。

「た、ただい――」

 『ま』は言えなかった。二人は猛烈な勢いで俺に詰め寄って、口々に以下のことを述べだしたのだ。

「久保谷、ねずみの国には俺と行くよな。昨日の晩飯の時、最近俺の飯凝ってて美味いって言ってたもんな」

 ①レンレン

「みんなが言うことは気にしなくていいからね。瞠が行きたい人を誘えばいいよ。だけど俺を選んでくれたら嬉しいな」

 ②ハルたん

 そして残り二人もソファーから立ち上がってやってきた。

「久保谷は僕と出掛けたくはないのかい?」

 ③茅さん

「瞠は僕のこと好きじゃないって分かってるからみっともなく口説いたりはしないよ。……選ばなかったらあの動画みんなに配るから」

「だから脅すのはなしだって!」

 ④くそがき……じゃなくてさっちゃん

 彼らが今までの争っていた原因は、どうも俺みたいだった。
正確に言うなら俺が福引きで当ててしまった『ネズミの国』への招待券の取り合いが、騒動の理由だった。
なぜなら、このチケットは『ペア』である。二人しかいけないのだ。う、うぅん。

 わ、忘れてた。ペアってことは友人の中から誰か一人を俺が選ばないといけないのだ。
コンマ一秒も考える隙もなく悲鳴をあげたくなった。俺が誰か選ぶなんて難問に解答できる訳ないじゃん!

 四人はじっと俺の答えを待っている。

 みんなは余程ねずみの国に行きたいのだろう。
俺だって行きたい。何と言っても家族や友達といった、仲が良いグループとは必ず一度は行くような定番の場所。子供のための夢の国。幸せな子供ならきっと行くはずの遊園地。
行きたい。三食ご飯抜きにされても、お気にのソフトと交換されても良いぐらい行きたい。

 でも俺は友達を一人だけ選べなんて言われても無理だし、ハルたんにだけチケット捕ったどー報告メールしたのは受信boxの一番上だったからだし、俺がどうこうよりもみんなに悲しんで欲しくはない。
だから最善とは言えないと分かっていても、俺がこの時出来る手はこれしかなかったのだ。

 俺は普段通りの態度で言った。

「とりあえず、俺はいらないからさ。誰かに譲るね」

 しーん。

 場が静寂に満ち溢れた。

 な、何この沈黙?さっちゃん辺りは喜んでチケット奪いに来そうなのに。みんな心なしか目線が冷たくなったような。

「いやーでも俺すごくねぇ? ティッシュとお菓子ぐらいしか当たったことなかったのに、ねずみの国ッスよ? でもどうせなら二等賞を二回当てたら、みんなねずみの国に行けたのに、気がきかないなぁ。あははは」

 しーん。

 俺壮絶にすべったお笑い芸人みたいになってんじゃん! というかみんなの顔がどんどん冷めていくんだけど!
ああああああ。なんで俺ティッシュじゃなくてチケット当てちゃったんだろう。こんなややこしいことになるならティッシュが良い。ありふれてるけど万能で誰も取り合ったりしないなんて素晴らしいティシュ。
いっそのこと今からでも交換して欲しい。

 なんだか泣きそうだ。
だれかティシュをください。涙と鼻水拭く為に。

「久保谷くん、分かってないでしょう」

 傷心の俺の肩をぽんと叩かれた。

「あれ! マッキー?」
 
 斜め後ろを見るとマッキーが笑っていた。いつの間にいたんだろう。

「和泉くんからメール貰たんだ。事情は分かっているよ。ねぇ、みんながなんで喧嘩したり、あんな不満そうな顔しているか久保谷くん分かる?」

 そんなの分かっている。

「だから、俺が当てたチケットが二枚だから四人で行けないって話だよね」

「ぶっぶーハズレです。二枚だからも、四人だからも、何もかも不正解」

「えっえっ!?」

 頭が混乱した。俺は今度は何を間違えてしまったのだろう。

「分かってねーのかよ」

 声のした方向を恐る恐る伺えば、レンレンがムスッとした顔をしていた。なぜか拗ねた子供に見えた。

「ごめんね瞠。でも瞠も悪いんだからね。俺たちは最初からチケット奪い合ってたんじゃないんだから」

 ハルたんが何を言っているのかよく分からない。
俺は最初から最後まで何かもかも分からなかった。けど、みんなが俺を見る目は優しかった。俺は困ってしまって、もう一度マッキーを見た。

 マッキーは仕方ないな、と言いたげに眉を下げ、柔らかな声で魔法の言葉を囁いた。

「みんなは、誰が遊園地に行くかで揉めてたんじゃなくて、誰が久保谷くんと一緒に遊園地に行くかで喧嘩していたんだよ。なのに久保谷くんが行かないとか言っちゃったら意味がないでしょう。行くなら四人じゃなくて五人でしょう」

 えっ。

 えぇ!?

 えーーーーーーー!!!!!

 嘘だー!!!! チケットじゃなくてみんなが俺の取り合いとか。あり得ないって! ハルたんとかマッキーなら分かるけど、俺を取り合うとか意味分かんないじゃん!

 うわー! うわー!
 
 このまま叫んで走り出したい気分だ。今俺、ぜっったいに顔が赤い。

「どうしょう、俺が金持ちなら世界中の子供に夢の国のチケットを配ってあげたい気分」

 思わずしゃがみこんで顔を腕で隠してしまった。恥ずかしアピール。

「瞠も本当は行きたいんでしょう」

 ハルたんの声が頭上から落ちてきた。

「うん。つーか、マジみんなで行きたい。あー、これなんで二枚しかないの~!」

「大丈夫。その為に先生を呼んだから」

「和泉くんそれどういう意味?」

 さっちゃんの自信に満ち溢れた言葉と、マッキーの不思議そうな声に興味をそそられて俺は顔をあげていた。
視界に入ってきたさっちゃんは、先生の顔を真っ直ぐ見上げて言った。

「足りないチケットは先生が買ってよ」

「無理だよ!」

 さっちゃん、先生はさっちゃんを甘やかす年上の女性とは違うからね。
何の解決も望めなさそうな光景に生暖かい目を向けた。

「槙原、なんかないのかよ」

「先生……」

「そんな縋るような顔されたって無理だよ。お金ないし。先生だし。そうだ。辻村くんと茅くんお金持ちなんだから買ってあげたら良いんじゃない」

「先生最低」

「はぁ? お前生徒に向かって金の関係ダチと結ばせる気か!?」

「ごめんなさい」

 マッキー、落ち込んじゃった。 うん。ドンマイ。 同情はしないけど。

 みんながどうしょうかと考えていると、どたどたと玄関が騒がしくなった。

「咲、他にも誰か呼んだか?」

「うん」

 なんとなーく察せられた正体は飛び込んできた姿を見て現実となった。

「みんな俺と夢の国に行こうー!」

 ばーん!!

 扉を破壊せんばかりに飛び込んできたのは、世界で一番騒がしいであろう友人だった。
あと、後ろには目つきの悪い保護者がいた。

「清史郎にも連絡したの?」

「違うよ。賢太郎の方」

 と言って、とことこ賢太郎の前に行くさっちゃん。さっきと同じことを言う気だろう。

「賢太郎、僕にねずみの国のチケットをちょうだいよ」

 だからどう考えても無理だって! マッキーよりあり得ないよ。
賢太郎は眉一つ動かさず、言った。

「いいぞ」

 ほ~ら~、無理……じゃないだと!?

「ほい」

「ありがとう」

 さっちゃんってば何平然と受け取っているの!?
というか今渡したのチケット!? 何で賢太郎チケット持ってんの!

 俺たちはこぞってさっちゃんの元に駆けつけて、受け取ったものを見た。

「本物だ」

 偽造とかでないなら、それは間違いなく夢の国への招待券だった。

「兄ちゃん、俺のを勝手に渡すなよな」

「どうせこいつらに渡すんだから良いだろう」

 頬を膨らませた弟と冷めた兄のやりとりをぼけーと見つめていると、清ちゃんは太陽みたいな笑顔で俺に走り寄ってきた。

「瞠、みんなで一緒にねずみの国に行くよな?」

「いや、でもチケット四枚でも足りないんだけど」

「あれ、俺が持ってる四枚じゃ足りねーの?」

「ちょっと待って清ちゃんが四枚持っているの!?」

 見るとさっちゃん以外の三人が賢太郎に群がってチケットを貰っていた。

「兄ちゃん俺のまで渡してるー。別にいいよ。瞠の貰うし。瞠は二枚持ってるって兄ちゃんのメールに書いてあったから全員分あるよな」

 チケットの数は、清ちゃんが四枚、俺が二枚で合計六枚。
一方俺たちの人数は、清ちゃん、ハルたん、レンレン、茅さん、さっちゃんで六枚。ピッタリ需要と供給が一致した。

「清ちゃんどうしたのあのチケット?」

「瞠と一緒。七回福引き回して二個二等賞、一個五等賞、残りはティッシュ! 今回は一等賞じゃなかったけど良かった。これでみんなで夢の国に行けるよな」

 眩暈がしてきた。

「あははは。……清ちゃんって凄すぎるよ」

 ひとしきり笑って俺は脱力した。
俺にとっては、人生初の二等賞だったのだけど、清ちゃんにとって白い玉と出会うのは赤い玉と出会うのと同じぐらい日常的な出来事らしい。にこにこと両手を差し出してくる清ちゃんにチケットを渡そうと思って、俺はあることを思いついた。

「清ちゃんが当てたティッシュと交換してよ」

「うん。いいけど」

 何の疑問も浮かばないかのように、清ちゃんは馴染み深い商店街のマークが入ったティッシュを差し出してきた。 チケットが二枚だった頃、俺が交換して欲しいと焦がれてやまなかったティッシュがここにある。
俺は儀式めいた気持ちで本来釣り合わないはずの物々交換を成し遂げた。

「へへへ。瞠のチケットゲットー!」

「関係ないけど、清ちゃんって人から貰うものなんでも喜ぶよな」

「瞠もティッシュ欲しがったじゃん」

「まぁね。欲しかったから」

 今日の教訓。ティッシュと夢の国のチケットの価値が釣り合うこともある。例えば、友情という付加価値によって言い意味でも悪い意味でも等価価値になるのだ。



 余談だけど清ちゃんの強制執行により、一緒に行く気がなかった大人組は自腹切らせてねずみの国に行かされた。
ちなみにマッキーはやっぱり遊園地でも死にかけていた。マッキードンマイ。でもみんなで行けてまじ嬉しかったぜ!

―完―

 さっちゃんが予想外にフリーダムになりました。瞠はもっと愛されるべき。唯一の心残りは神波さん出せなかったこと。
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theme : 二次創作:小説
genre : 小説・文学

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